最近、髪質改善やダメージケアの話をしていると「ジマレイン酸」という成分を耳にする機会が増えてきました。
ただ、名前は聞いたことがあっても「結局、髪の中で何をしているの?」と思っている方も多いのではないでしょうか。
今回は、美容師として少し専門的なところまで踏み込んで説明します。
まず知っておきたいのが、一般的に美容業界で「ジマレイン酸」と呼ばれているものには、成分の呼び方に少し注意が必要だということです。
代表的な成分のひとつが「ビス-アミノプロピルジグリコールジマレエート」です。これはマレイン酸由来の構造を2つ持った化合物で、韓国の化粧品成分表示でも独立した成分として登録されています。
では、なぜこの成分が髪のダメージケアで注目されるのでしょうか。
ポイントになるのが、毛髪を構成しているケラチンと、そこに存在する硫黄です。
カラーやブリーチ、パーマ、縮毛矯正などの化学施術では、毛髪内部のシスチン結合、いわゆるS-S結合に影響が起こります。
ジマレイン酸系の成分は、このダメージによって生じた毛髪中の反応性を持つ硫黄基と反応する可能性があります。
ここで登場するのが「マイケル付加反応」です。
少し難しそうに聞こえますが、簡単に言えば、ジマレイン酸系分子が持っている反応性の高い部分に、毛髪中のチオール基(-SH)が反応する化学反応です。
しかも、ビス-アミノプロピルジグリコールジマレエートは反応部位を2つ持つため、毛髪中の異なる部位と結びつくことで、ケラチン同士をつなぐような働きが期待されています。(Lab Muffin Beauty Science)
そのため美容室では、ブリーチやカラー、パーマなどによるダメージに対して、毛髪の強度や質感をサポートする目的で使用されます。
ただし、ここは誤解してはいけないところです。
「切れたS-S結合を完全に元の状態へ戻す成分」と断定するのは、現在の研究結果から見ると正確ではありません。
実際に毛髪を分析した研究では、ジマレイン酸系の補修剤によって毛髪のコルテックスやキューティクルに変化が確認された一方、コルテックスのS-S結合量が増加したという結果は確認されていません。また、提案されているマイケル付加反応による架橋を直接証明する結果も得られていません。(PubMed)
では、実際の美容室で意味がないのかというと、そういう話でもありません。
研究では、処理後の毛髪表面がより整った状態になり、キューティクルの重なりが改善するような変化も観察されています。(サイエンスダイレクト)
つまり、ジマレイン酸系成分は「髪を一度壊してしまったものを完全に元通りにする魔法の成分」ではありません。
化学施術によって負担がかかった毛髪に対して、毛髪内部や表面の状態を整え、強度や質感をサポートするために使う成分。
この考え方が、実際のサロンワークでは一番しっくりきます。
特に大切なのは、ジマレイン酸を入れればどんなダメージ毛でも綺麗になるわけではないということ。
薬剤の選択、還元の強さ、アルカリ量、放置時間、アイロン温度、酸化、そして毛髪の体力。
これらを適切にコントロールした上で、必要なところにジマレイン酸系の成分を組み合わせる。
僕は、これこそが髪質改善や縮毛矯正における「補修成分の使い方」だと考えています。
成分を入れることだけを目的にするのではなく、髪の状態を見て、何が必要なのかを判断する。
それが、本当の意味で髪を綺麗にしていくために大切なことだと思います。
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