美容でいうアルカリ剤は、簡単に言えば
薬剤をアルカリ性にして、毛髪を膨潤させたり、他の成分を毛髪内部へ届きやすくするもの
と考えると分かりやすい。
代表的なのは、
- アンモニア
- モノエタノールアミン
- トリエタノールアミン
- 炭酸水素アンモニウム
- 炭酸塩
- 水酸化ナトリウム
- 水酸化カリウム
- 水酸化カルシウム
など。
ただし、これらは「アルカリ」という共通点があるだけで、毛髪への作用は同じではない。
実際、パーマ剤についても、日本パーマネントウェーブ液工業組合は、薬剤の強さはpHだけではなく、還元剤の種類・濃度、アルカリ度、添加剤などの総合的なバランスで決まると説明している。
ここが一番重要「pH」と「アルカリ度」は別物
例えば、
pH=現在どれくらいアルカリ性なのか
に近い指標。
一方、
アルカリ度=酸を加えていったとき、どれくらいアルカリを中和する能力があるのか
という考え方。
だから、
pH9だから同じ強さ
とはならない。
さらに美容では、
「どんなアルカリ剤なのか」
も非常に重要。
アンモニアとモノエタノールアミンでは何が違う?
例えばアンモニア。
アンモニアは揮発性が高い。
つまり毛髪上で時間が経つと、ある程度空気中へ逃げていく。
一方、モノエタノールアミンなどのアミン類は揮発しにくく、毛髪への親和性や残留性が比較的高い。
そのため、
同じ「アルカリを作る成分」でも、薬剤中での挙動が違う。
実際に美容業界でも、アンモニアとアミン類では揮発性や残留性、オーバータイムへの配慮などが異なると説明されている。
さらに研究では、モノエタノールアミンは濃度や条件によってケラチン繊維へ吸着・浸透し、機械的強度低下やタンパク質損失を起こすことも確認されている。
じゃあ、なぜ海水はpH8前後なのにパーマほど傷まない?
ここがめちゃくちゃ面白い。
海水は一般的に弱アルカリ性で、pHはおおむね8程度。
でも、
「pH8だから髪をパーマ剤と同じように処理する」わけではない。
理由は、海水にはパーマ剤のような
還元剤+アルカリ剤という組み合わせがない
から。
パーマ剤の場合、
アルカリ剤
↓
毛髪を膨潤させる
↓
薬剤が内部へ入りやすくなる
↓
還元剤
↓
毛髪内部のジスルフィド結合に作用
↓
形を変える
↓
酸化剤で再形成
という化学反応が起こる。
つまり、パーマのダメージを
「アルカリだけのダメージ」
と考えるのは不正確。
還元・酸化、膨潤、タンパク質への作用などが複合して起こっている。
さらに「pH8」という数字だけでも全然違う
例えば海水のpHが8だとしても、
pH8の海水と、pH8に調整したパーマ液は同じものではない。
これは極端に言えば、
「砂糖水」と「砂糖+還元剤+界面活性剤+アルカリ剤を含む薬剤」が、同じpHだったとしても同じ作用をしないのと一緒。
pHはあくまで、
水溶液中のH⁺とOH⁻の状態を示している数字
であって、
その液体が毛髪に何をするのかを全部説明する数字ではない。
日本パーマネントウェーブ液工業組合も、同じpHでも使用するpH調整剤の種類や量まではpHの数字から分からず、pHだけで強弱や安全性を判断するのは適切ではないとしている。
じゃあアルカリ剤は何をしているの?
美容師目線では、ここを3段階で考えるとかなり理解しやすい。
① 毛髪を膨潤させる
アルカリ側へ傾くと、毛髪のケラチンが水を取り込みやすくなり、毛髪が膨潤する。
するとキューティクルも動きやすくなる。
② 薬剤を内部へ届きやすくする
膨潤することで、還元剤などが毛髪内部へ移動しやすくなる。
つまりアルカリ剤は、
自分自身が主役というより「還元剤を働かせる環境を作る」
という役割も大きい。
③ 還元剤の働きにも影響する
例えばチオグリコール酸系なら、アルカリ側にすることでチオグリコール酸の一部がイオン化し、より反応しやすいチオグリコレートイオンの割合が増える。
つまり、
アルカリ剤 → 毛髪を開きやすくする
だけではなく、
アルカリ剤 → 還元剤を働きやすくする
という二つの意味がある。
このため、パーマ剤ではアルカリ剤が還元剤の作用を助け、毛髪内部へ到達させる役割を持つ。
さらに重要なのが「アルカリ剤の種類」
美容師として一歩踏み込むなら、
pH → アルカリ度 → アルカリ剤の種類 → 濃度 → 揮発性 → 毛髪への親和性 → 還元剤との組み合わせ
まで見た方がいい。
例えば、
アンモニア
は揮発性が高い。
モノエタノールアミン
は揮発しにくく残留しやすい。
水酸化ナトリウム
などの水酸化物は、非常に強いアルカリ性を作り、通常のパーマ剤とは作用機構そのものがかなり違う。
実際、アルカリ性ストレート剤では水酸化物によってジスルフィド結合への作用まで起こり、ランチオニン化などの不可逆的な構造変化につながる場合がある。
だから「アルカリ=悪」でもない
ここも重要。
アルカリ剤そのものが悪者ではない。
むしろ縮毛矯正やパーマでは、
必要なところまで毛髪を膨潤させ、必要な量の還元剤を必要な場所まで届ける
ために非常に重要。
問題なのは、
どのアルカリを、どの濃度で、どれくらいの時間、どんな毛髪に使うか。
ここ。
だから美容師が薬剤を考えるとき、
「この薬はpHいくつ?」
だけでは不十分。
本当に見るべきなのは、
pHはいくつなのか?
アルカリ度はどれくらいなのか?
何のアルカリ剤なのか?
還元剤は何なのか?
その還元剤がどれくらい反応できる環境なのか?
その毛髪にどこまで浸透・膨潤させる必要があるのか?
というところ。
そしてこれを理解すると、「同じpH9の薬なのに、なぜ仕上がりやダメージが全然違うのか?」という疑問もかなり整理できる。
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